織機池(はたごいけ)

昔、新居の愛宕山の下に池がありました。この池は毎年5月になると決まったように堤防が
欠損し、村人を困らせていました。これといって良い解決策もなく月日が流れていきました。

 あるとき、村を通りかかった占い師が人柱を入れるようにと宣を下し、
5月1日にハタゴを持って池のほとりを通る女がよいということでした。
村人はその日を密かに待っていると、新居郷島の親戚の家に
ハタゴを返しに行く瀬戸川の女が通りかかりました。
これを幸いと、村人は女を池に放り込んでしまったのです。

 これで堤防の欠損は収まりましたが、まもなく新居と瀬戸川に悪病が流行り始め、
たくさんの死人がでるようになりました。これは人柱にした女の祟りであろうと、
村人は小堂を建て、菩薩を弔うとともに、「正月と五月には機織はしません」
と願い事をしたところ、ようやく流行り病が治まりました。
 
 それから長い月日が流れ、明治も初年のこと、新居のある女房が
「正月になれば機織ができなくなるから」と、大晦日にもかかわらずせっせと仕事をしていました。
ところがまだ充分あると思っていた時刻は、知らない間に正月になっていました。
すると途端に彼女は発狂し、「機の音がする。機の音がする。」と言い続けて
狂い死んでしまったと言います。