6 羽衣を着た天女

おとめは衣を着しつつ、げいしょう羽衣の曲をなし 天の羽衣風に和し、雨に潤ほふ花の袖、一曲を奏で、舞ふとかや。

東遊の駿河舞、東遊の駿河舞、この時や始めなるらん

場面説明 後見座で長絹をつけた天女が、舞台の左奥の常座〔じょうざ〕と呼ばれるところに立ったところです。この姿が、羽衣を来て、空を飛ぶ事ができる天女の姿を表現しているという約束です。
本文の内容 天女が、自らの住む月世界・天上界の様子を語ります。そして、この天女がこの時に舞った舞が、現在の「東遊」のなかで行われる「駿河舞」の起源になったといいます。
1 空が「久方の空」と言われる理由 そもそも「久方の天」と言う呼び方は、いざなぎ・いざなみの二神が、この世の全てのものの名前を定めた時に、空は限りもないものだからと言って、「久方の空」と名付けたのである。
2 天女の住む月の宮殿ー月宮殿の様子 ところでその空にある月の宮殿は、永久に続くようにと見事な玉の斧を用いて造られたもので、そこには白衣・黒衣の天人がそれぞれ十五人、ひと月の毎夜毎夜、役をさだめて奉仕している。私もその人数の中の一人で、月の世界に住むものなのだが、かりに東国の駿河にあま降り、舞いを舞うのだが、これが世に伝えられた駿河舞となったのだよ。