5 舞う約束で返す

いやこの衣を返しなば、舞曲をなさでそのままに、天にや上がり給ふべき。

いや疑ひは人間にあり、天に偽りなきものを

あら恥ずかしやさらばとて、羽衣を返し与ふれば

この場面の内容 白龍はもし羽衣を返したならば、舞いを舞わないで帰ってしまうのではと疑います。しかし天上界に偽りというものはないのだと言われ、天人を疑った自らを恥じて羽衣を渡します。
天女は衣を受け取って、舞台の左奥の後見座(こうけんざ)に行きます。そして、その衣〔長絹 ちょうけん〕を身につけます。このように舞台の上で装束をつけることを物着〔ものぎ〕といいます。この物着の時には小鼓と大鼓がアシライという囃子を演奏します。この二つを合わせて、この時間を物着アシライと呼ぶこともあります。単純に着替えているだけの時間を、如何に退屈と感じさせないで物語の緊張感を保ってゆくか、囃子方の力量の問われるところです。