6 地名を調べるとき

和歌における「歌枕」はもちろんですが、文学作品には多く地名が登場します。現在でも、歌謡曲に「横浜」とか「神戸」がでるのと同じことです。同じ港がある都市でも「名古屋」は歌になりません。岐阜ならば「長良川艶歌」がありますが。文学の調査の場合、地名の調査は「その場所を知る」というのみではなく、「その場所のイメージを知る」ことに意味があります。
たとえば、「演歌」の「世界」ならば、彼氏はほとんど北国出身です。そして、北に帰った彼を彼女は連絡船か最終列車で追いかけます。しかし必ず相手に逢えずに女性は北の宿か酒場で泣き明かします。いまどき携帯に電話もせずにいなくなった彼氏を追いかける人がいるかどうか、非常に疑問ではありますが。同じように、テレビドラマの世界で言えば、北海道は都会に疲れた男女が駆け落ちして大自然の中で牧場を経営するところです。
文学にはジャンルにより、「約束事」で成り立った「世界」がありますが、そのイメージは広く流布した先行作品の影響が大きいのです。そういうわけで、文学の調査で用いる地名辞典は、必ずその土地を題材にした文学作品を広く収集したものでなければなりません。そういう意味で、次の3つの辞典はお勧めです

『増補 大日本地名辞書』 全8巻 吉田東伍著 冨山房 明治40年10月初版刊行(2階参考 291)
『日本歴史地名大系』   全48巻  平凡社  1981年11月発行 (2階参考291)
『角川日本地名大辞典』  「角川日本地名大辞典」編纂委員会 竹内理三 角川書店 1989年(2階参考 291)

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