5 和歌の用例を探したいとき
(ア)和歌全般における用例を知りたい時
『新編 国歌大観』角川書店 図書館二階参考コーナー

*第一巻 勅撰集編、第二巻 私撰集編など、和歌集の性格によって巻が分かれています。
*どの巻も「索引編」と「歌集編」に分かれています。「索引編」でその語句を用いている和歌の「歌集番号」(国歌大観のその巻における歌集の配列の順番)と、その歌集における「歌番号」(その歌集に収められている歌の通し番号)を調べ、「歌集編」で調べます。
*『国歌大観』はCD化されていますので、それでも検索出来ます。

(イ)私家集の用例を知りたい時
 「私家集」とは一人の歌人を対象に、私的に歌を集めて作った歌集です。その歌人本人や、一族・縁者が作ってその家に伝えられることが多いので「家集(いえのしゅう)」とも呼びます。

『私家集大成』
*これは、索引が各巻の後についていますので、それで検索します。

(ウ)中世の歌学書におけるその和歌の用例を知りたい時

『歌学大系』 正編1-9巻・総索引 久曽神昇・樋口芳麻呂編 風間書房 昭和38年発行 (1階 911.1)
『歌学大系 別巻』 正編1-9巻・総索引 久曽神昇・日本歌学大系別巻索引作成委員会 平成9年発行(1階 911.1)

これは、どちらのシリーズも総索引が第10巻にありますので、それの「引歌索引」で検索します。各歌について、もしくは各歌人について、現在とはまったく異なった解釈がされていることがあります。「歌学書」は、本来自分が歌を上手に作るための指南書です。しかしながら、和歌を作るためには先人の和歌をよく理解するべきだという観点から、先人の和歌の解釈を勉強することが中世には非常に流行しました。ただ、現在と異なるのは、和歌を、それにまつわる歌人の実生活とからめて理解しようとする態度が非常に強いことです。ですから現在の我々から見て妥当性を欠くと思われることが多いのです。しかしながら、これを一つの「説話集」と考えて読むと、中世の人々の和歌に関する意見が非常によくわかります。「引歌索引」以外に「人名索引」もありますから、この作者は当時どのような人生を送った人と考えられていたのか、ぜひ調べてみてください。

(エ)平安時代の歌合における用例を知りたいとき
 和歌には「題詠」と「日常詠」という二種類の分類があります。「題詠」は、「花」「恋」など、定められた「題」に沿って作られた和歌をさします。一方「日常詠」は、「○○さんに求婚した時」とか「×さんと別れた時」など、人生におけるそれぞれの場面において詠んだ和歌です。「題詠」「日常詠」は、このように和歌の「制作事情」による分類です。この「制作事情」は、それぞれ和歌の右側の「詞書」と言われる部分に書かれています。
「題詠」と「日常詠」と、この二種の言葉だけ聞きますと、「日常詠」の方がより心がこもっているように聞こえますが、そう単純ではありません。文学は、その「表現の良さ」に価値があるものですから。現在の歌謡曲なども全部「題詠」と同じく「題」に沿って作られます。ですから、バレンタインデーで告白したかと思うと、卒業で別れて、夏は夏休みに渚で恋をして、秋風が吹くと別れて、寒くなるにしたがって心凍らせて、雪が降るとスキー場で恋をするか、あるいは二人でクリスマスを過ごせるかどうかなどを悩むというように、季節ごとに違う設定の歌が歌われることになっているのです。そして、そのような歌謡曲がヒットしているところを見ると、それらの享受者は、それが虚構の世界であることを知って楽しんでいることとなります。
同じ「題」で詠んだ歌のどちらが優れているか、それを競う遊びに「歌合」があります。平安時代には、この歌合は非常に盛んに行われました。ある「題」について、その題の時にはどのような内容が詠まれるのか、を調べるのに便利なものに『増補新訂 平安朝歌合大成』があります。

『増補新訂 平安朝歌合大成』 全5巻 萩谷朴 1996年12月発行 (1階 911.18)

この本は平安時代に行われ、伝本が現存する歌合と、詠まれた和歌の詞書から、歌合において詠まれたことが確実視される和歌を集めたものです。第5巻が索引になっています。この5冊はページが通し番号になっています。以下、検索の仕方について説明します。

  @歌合年表
第5巻の2682-2692頁が歌合年表です。歌合475度(内、証本の全部もしくは一部を現存するもの207度、他に欠番〔362〕1度。歌合類似行為31度)が記録されています。この「歌合年表」において各歌合の上に書かれている漢数字が「歌合番号」です。1巻から4巻に収められている歌合は以下の通りです。
第1巻 別一  惟喬親王歌合 _ 九九  〔正暦年間〕夏花山法皇東院歌合
第2巻 一00 某年公任歌合 − 二0三 承暦二年四月廿八日内裏歌合
第3巻 二0四 承暦二年四月卅日内裏後番歌合 − 三二八 長承三年六月丹後守為忠歌合
第4巻 三二九 長承三年中宮亮顕輔歌合 − 四六六 〔文治五年十一月以前〕西行続三十六番宮河歌合

 A人名索引
第5巻の2708-2738頁が人名索引です。この人名索引は、各歌合に参加した歌人を検索することができます。気をつけるべきことに、人名の下の漢数字は_歌合年表の項で述べた「歌合番号」であって、頁数ではない点が挙げられます。たとえば、2704頁の「男子之部」の最初には
 あきかぬ〔藤原忠俊男、顕兼カ〕・・・・・二三五
とありますが、これは「あきかぬ」という人物〔男子〕が、二三五番の歌合(永長元年五月三日左兵衛佐師時歌合)に参加していることを示します。この二三五番の歌合は、_歌合年表から第三巻に収められていることがわかります(年表の下に頁数が書かれています。この歌合の場合1563頁)から、その頁を見ます。あと一つ注意すべきことは、この「人名索引」は「男子之部」「僧侶之部」「女子之部」に分かれている点です。女子の場合はまず問題ありません。男性の場合は、藤原俊成は俗人として「男子之部」に載りますけれど、藤原俊恵は僧侶ですから「僧侶之部」に載るなど、名前を見ただけでは俗人か出家しているのかよくわからないケースの時迷うことがあります。片方に載っていない場合、もう片方も確認することは忘れないでください。

 B歌題索引
第5巻の2740-2753頁が「歌題索引」です。この歌題索引は、それぞれの歌の「部立」(和歌集における分類)によって分かれています。勅撰集の部立に倣っているのですが、これを順に挙げますと、
  春・夏・秋・冬・恋・祝・懐・旅・所・馬・謎・語・雑
となります。似た題材が、異なる部立てで詠まれていることはよくありますから、自分の歌が、どの「部立」の歌なのかを考えて引くことが大切です。たとえば、自分の担当する歌が、[桜の花の下で相手を恋しく思う]といった題材であれば、これは「恋」の題材ですから、「恋」の部立を見て「花下恋(はなのもとのこひ)・・・・・・四三六」を調べるの有効です。一方春の部立には、「はな(桜花)・・・・・・三四五・三五0・三六一(後略)」などとあり、単に「花」の歌として詠まれているものも相当あるのです。これを調べることは、参考にはなりますし、是非やってもらいたいですが、ただ、自分が調べている歌と直接には関わらないこととなります。

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